
1992 年、 22 歳のころの自分、その時代を思い出すきっかけにもなった。お金はないけど時間だけはあったから新宿や池袋の小さい映画館に行っては安い値段で 2 本、3 本と見れる映画館に足繁く通っては、年間 50 本以上の映画を劇場で見ていた。映画館という暗闇の中で光と音によって表現される世界に身を委ねる行為そのものに魅せられていたのかもしれない。だから娯楽大作よりは作家性の高い監督の特集上映に足を運ぶ機会が多く、'60 年代のヌーヴェルヴァーグの作家達や、'70 年代のアメリカンニューシネマの作品、その流れをロードムービーで表現したヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュなどの映画に刺激を受けていた。中でもクリント・イーストウッドの存在は特別で大作映画に出演しながらも、自ら監督する作品は所謂ハリウッド的な娯楽作品とは違う主張をもって作品を発表していた。それはショーン・ペン監督のデビュー作からも感じられる、共通する感覚だった。
当時、巨大なビジネスになっていた音楽産業に対して、アンチテーゼを掲げるべくカテゴライズされていたオルタネイティブ・ロックと呼ばれていたジャンルがあった。(そのカテゴライズ自体もビジネス的だったのだけれど)NIRVANA がその代表的なバンドで、プールの中で裸の幼児が紙幣で釣られる(溺れる?)写真で表現された"NEVERMIND" のジャケットは痛烈な社会批判のメッセージだった。 "INTO THE WILD" の主人公の行動は、そんな時代に静かでストイックな方法で抵抗を示したように思う。映画を見終わって新宿の町に出た時に感じた違和感のような得体の知れない感覚、その大きさにしばし目眩がした。たった一度、見ただけで強いインパクトを与えてくれたこの作品、いつか DVD でもう一度、観る時が来るように思う。