20090311

INTO THE WILD | Sean Penn

最近あまり映画館に行く時間がとれてないのだけど、2008 年に見た映画の中で、このショーン・ペン監督作品の "INTO THE WILD" は別格だった。この映画が描いているのは 1992 年で、主人公は大学を卒業した 22 歳、つまり 1970 年生まれ、自分と同い年の青年の話なのも、特別な気持ちにさせられた要因のひとつかもしれない。ストーリーは、これから見る人にとって先入観を植え付けてしまうだろうから語らないないでおくけれど、誰もが心の奥底に持っているであろう自由への憧れと真の自由に出会えた時の孤独が、大自然の美しさと厳しさの中で瑞々しく描かれている。家族との確執や出会った人達との絆や友情、そして恋愛。それらの要素は映画の中心になり得るはずなのに、なんだかさらっと過ぎ去った記憶として描かれている。この映画ではもっと大きなテーマを捉えたいのだろう、決して過剰にドラマティックに演出する事は無い。'91 年のショーン・ペンの最初の監督作品 "THE INDIAN RUNNER" を観たときも同じように感じたのを思い出した。映画監督としての一貫した姿勢には、信頼感を感じる。

1992 年、 22 歳のころの自分、その時代を思い出すきっかけにもなった。お金はないけど時間だけはあったから新宿や池袋の小さい映画館に行っては安い値段で 2 本、3 本と見れる映画館に足繁く通っては、年間 50 本以上の映画を劇場で見ていた。映画館という暗闇の中で光と音によって表現される世界に身を委ねる行為そのものに魅せられていたのかもしれない。だから娯楽大作よりは作家性の高い監督の特集上映に足を運ぶ機会が多く、'60 年代のヌーヴェルヴァーグの作家達や、'70 年代のアメリカンニューシネマの作品、その流れをロードムービーで表現したヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュなどの映画に刺激を受けていた。中でもクリント・イーストウッドの存在は特別で大作映画に出演しながらも、自ら監督する作品は所謂ハリウッド的な娯楽作品とは違う主張をもって作品を発表していた。それはショーン・ペン監督のデビュー作からも感じられる、共通する感覚だった。

当時、巨大なビジネスになっていた音楽産業に対して、アンチテーゼを掲げるべくカテゴライズされていたオルタネイティブ・ロックと呼ばれていたジャンルがあった。(そのカテゴライズ自体もビジネス的だったのだけれど)NIRVANA がその代表的なバンドで、プールの中で裸の幼児が紙幣で釣られる(溺れる?)写真で表現された"NEVERMIND" のジャケットは痛烈な社会批判のメッセージだった。 "INTO THE WILD" の主人公の行動は、そんな時代に静かでストイックな方法で抵抗を示したように思う。映画を見終わって新宿の町に出た時に感じた違和感のような得体の知れない感覚、その大きさにしばし目眩がした。たった一度、見ただけで強いインパクトを与えてくれたこの作品、いつか DVD でもう一度、観る時が来るように思う。